御物東伝・銘刀押形/佐藤貫一/皇室御物及び東京国立博物館保管の旧御物を始めその他の刀剣類の中には殆ど世上一般には知られていないもの

商品説明
御物東伝・銘刀押形/佐藤貫一/皇室御物及び東京国立博物館保管の旧御物を始めその他の刀剣類の中には殆ど世上一般には知られていないもの

昭和33年　365P　非売品　モノクロ　26㎝×37cm　非売品ですので残存部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。

皇室御物及び東京国立博物館保管の旧御物を始め、その他の刀剣類の中には殆ど世上一般には知られていないものが相当数あって、これらが一般に公開されるとならば、どれだけ刀剣界に貴重な資料ともなり、将来に齎らす利益も多かろうと考え ていたことでもあり、これだけのものを一纏めにして机側に置くことが出来れば我 の仕事の上からも便利至極でもあるとかねて 考えていたことでもあった。

ところでその実現となるとまず第一に御物の公開が果して簡単に許されようとしも思えず、博物館保管のものも、それ程やすやすとは出来ることでもなく、加えるに 公務多端であって、これ等沢山の押形や調書を完備することは実は一朝一日のことではない。しかも口はばったい言い方ではあるが、現職にある我々でなければ出来る仕事でないので、何とかこの仕事を完成したいと念願していたことである。そこ でいろいろお願いした結果、博物館の方では宜しかろうと云うことになり、宮内庁 の方からもお許が出たことは望外の悦びであった。

しかしいざ押形をとり、調書を整え、出版と云うことになると、さて先立つものが必要である。これもお蔭様に各方面の絶大な御協力によって何とか解決の道がつき、愈々出版に着手することになったのが昨年の秋である。

由来着々準備を進めて来たのであるが、公私の用務におわれてこれも遅々たる有 様で、そうしている中には各方面から御催促があったり、お叱を蒙るといったわけで一方我々にもあせりが出て来る。
こうしてやっとこさ、近く完成の見込みも出来たわけで、これは私どもにとって 非常な悦びであり、必ずや皆様にも或る程度の御満足が願えるのではないかといううぬぼれもある。

この押形集は書名が既に説明しているように、日本刀の全系統、全般的な作刀を 網羅すると云うものではなく、御物の刀剣類の中から在銘のものを主として二十一 1、文化財保護委員会保管の名物観世正宗、東京国立博物館保管刀剣類の中から、 これまた有銘のものを主として二百六十余口を選択して載録したもので、在銘以外 のものは、金象嵌銘の名物北野江、長船光忠、来国光、青江、左、左吉貞の六日が あり、光徳象嵌を始め、光室、光温、光忠等の手になるもので、金象嵌銘の参考として最も適切なものを選んだつもりである。

又無銘のものとしては名物小烏丸、名物観世正宗、名物籠手切正宗の三のみ で、それぞれ世に聞えた名刀のみであるばかりでなく、小烏丸は、新井白石がその 著軍器考に、天国の銘と大宝の年紀のある全く誤伝された押形を載せていることから、自然誤解しているむきが多いことも訂正したく、観世正宗は正宗作刀の代表作 の一として、又籠手切正宗には天正三年の磨上銘があるので参考のために掲載したものである。
実は無銘物でも御物の宗瑞正宗の短刀、名物会津正宗の刀等を始め博物館にも名 物鍋島江、その他の名刀があるが、これら無銘のものを割愛したのは単なる名刀集 ではなく、あくまでも在銘のものを主体としたからである。

然らば在銘確実なものは全部載せたかというとそうでもなく、就中作位の高いも の、出来のよいもの、或は作位は低くとも珍品とか銘が最も参考になるもの等を新 古を問わず出来るだけ広範囲に選定した次第である。

押形の作製は昨年の夏から著手し、茎の摺は池田末松君と秋元章吉君の協力を煩 わし、鋒を撮り、彫物を写し刃文を書入れたりしたのは寒山である。中に全身押形 を三十葉ほど縮写して掲載しているが、これは物の姿によって時代を知る、研究に 資する目的からである。

古来の押形集の中で、全身押形を主としているものは「光徳刀絵図」「木屋押形」 等が主たるもので、版本には全く見られないところであり、いささかながら隔靴掻 痒のを補う意図であるが、結局に於て隔靴掻痒のをまぬがれ得ないのは、紙面の 都合や経費の都合で致し方がない。中に鬼丸国綱の太刀と一期一振の磨上額銘とな っている刀の押形は光徳刀絵図から複写縮図したもので、非常に参考になると思う。

なお掲載の刀剣については一口ごとに出来るだけ詳細な調書を附したのは、単に 押形として見るのみでなく、よく物の真実を把んで頂きたいためと、同作その他実 物に接した場合の参考資料ともなり、学術資料としても活用の出来るようにと考え たからであり、一面から言えば刀剣の用語を適確に知って頂くことにもなろうとい う老婆心もある。更にそれぞれ説明を加えて初心者の手引書としても役立たせたい 念願である。

しかしながらこれらが我々の一人相撲か否かは御批評に俟つ以外にはない。

なおこの書の出版に当り、宮内庁、文化財保護委員会、東京国立博物館の御理解 ある御厚志に対しては重ねて敬意を表するとともに、本間順治博士の御指導を始め 愛刀家各位の尺大な御協力に対して深く感謝の意を表する次第である。
路和三十三年七月吉日
寒山佐藤 貫 一識


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